“本塩沢の織り手は60代でもまだまだひよっこなんです”
新潟県長岡市にあるきもの問屋
(株)猪井 本田さん
きもの産地として多く知られている新潟県長岡市に会社を構える(株)猪井。
隣の小千谷市、小千谷市から信濃川を上がると十日町市。
羽小野川を上がると南魚沼市塩沢があり、3つの産地に近い場所にある。
今回はその新潟の織物の中から<本塩沢>にスポットを当ててお話を聞かせていただきました。
塩沢で作っている織物は下記の4つ。
1越後上布
2本塩沢
3塩沢紬
4夏塩沢
本塩沢とは?
まず、数ある紬の中でも本塩沢の特徴といわれるのは、真綿糸と呼ばれる糸を用いて織っている紬と違って、生糸という糸で織り上げていることです。
・真綿を袋状に広げ、紡いだ糸が真綿糸と呼ばれ、これを用いて織ったものは紬と呼ばれる。
・一方で、蚕が吐き出した繭をお湯に入れ、キビソという固い部分を取り除くと、吐き出した糸の一本一本が取れる
その7本を一本糸にし、縦に8本つなげた生糸が本塩沢を織るための糸になる
小紋や礼装用の着物に用いられる縮緬生地と同じ作りだが、大きく違うのは先染めであること=つまり糸を染めてから織る
糸に色を染めるために・・・
蚕は虫なので動物性蛋白質(セリシンという物質)があり、セリシンがあるとうまく染まらないため、まずセリシンを取り除く精練という作業が必要となります
ちなみにこのセリシンを取り除くと全体の太さの25%ほどの細さになるそう
縮緬の場合は取り除く前に織り上げ、そのあとに精練(なので糸同士の間に隙間が空く)
細い糸の状態から織るので、織り方は一緒でもコシがある質感が生まれる
本塩沢は“単衣の王様”といわれているんです
さらに、本塩沢最大の特徴として、緯糸は片側から右回転と逆側から左回転させた「御召糸」
を用いて織っているということがあげられる
京都で織られる「西陣御召」に対し「塩沢御召」とも呼ばれる所以はここにあります
絹の糸を両側から回転させると縮む性質があり、それをぎゅーっと伸ばしのりで固める
この糸を緯糸にしてきものの反物を織っていく
この段階ではまだ48㎝の幅の反物(通常は1尺=約38㎝)だが、
お湯の中に漬け、湯モミをするとのりが落ち、縮む
また伸ばし最終的には38㎝の幅になる
この作業を終えると、縮んだ時に生まれるシボによってシャリ感が出て特有のさらりとして着心地の良さで知られる本塩沢になる
工程の多さは30以上で、一番多いと言われている大島紬に匹敵するとも言われる
ちなみに大島紬は1240~1260本の経糸だが、本塩沢は経糸1500本
強度もあり丈夫なので単衣の王様とも呼ばれています
「シボの分、肌に張り付かないため、もちろん袷でも着ていただきたいですが、
よりこの質感を楽しんでいただくにはわたしは単衣をおすすめしたいです。」
残念ながら織り手は年々減少しています
「ベテランが80代、70代でやっと中堅、60代はまだまだひよっこなんです。」と本田さん
年齢も上がっていく一方で織ることの難しさに直面している、といいます
きものが縮小しているといわれる現在…
ぜひ本物の織を触って、見て、着て、本塩沢を知ってほしいと思いました